大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

宇都宮地方裁判所 昭和61年(行ウ)3号 判決

原告 勝和機工株式会社

被告 鹿沼税務署長

代理人 合田かつ子 赤穂雅之 畠山隆敬 上武光夫 藤平俊 桧山達雄 ほか二名

主文

1  原告が昭和五九年七月三一日付でした昭和五八年五月分から昭和五九年四月分までのセーリングボードの物品税に関する更正の請求に対し、被告が昭和五九年一一月二六日付でした更正をすべき理由がない旨の通知処分を取消す。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、二分の一ずつ原告・被告の各負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

(原告)

一  原告が物品税について別表「更正の請求年月日」欄記載の日付でした各更正の請求に対し、被告が同表「原処分年月日」欄記載の日付でした更正をすべき理由がない旨の各通知処分及び昭和五九年一二月三日付でした無申告加算税賦課決定処分をそれぞれ取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(原告の請求原因)

一  原告

原告は、セーリングボード(商品名ウインドサーフイン、以下「本件物品」という。)の製造業を営む株式会社である。

二  更正をすべき理由がない旨の通知処分について

1 申告

原告は、被告に対し、昭和五八年五月分から昭和六〇年九月分までの本件物品に係る物品税について、納税地を栃木県鹿沼市茂呂六一〇番地の三とする物品税の納税申告書に、課税標準額及び納付すべき税額を別表の「申告」欄の「課税標準額」及び「納付すべき税額」の各欄のとおり記載して「申告」欄の各日にそれぞれ申告した。

2 更正の請求

原告は、昭和五八年五月分から昭和五九年九月分までの申告については、本件物品は課税物品に該当しないとして、また、昭和五九年一〇月分から昭和六〇年九月分までの各申告については、税率の適用に誤りがあつたとして、別表の「更正の請求」欄の「年月日」欄の各日に、「更正の請求」欄の「課税標準額」及び「納付すべき税額」の各欄のとおり、それぞれ更正の請求をした。

3 被告はこれに対し、別表の「原処分年月日」欄の各日付で、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。

三  無申告加算税賦課決定について

原告は、昭和五九年五月分の本件物品に係る物品税につき、課税標準額二億四五〇四万八〇〇〇円、納付すべき税額二四五〇万四八〇〇円と記載した納税申告書を昭和五九年八月二日に被告に提出したところ、被告は、昭和五九年一二月三日付で無申告加算税一二二万五〇〇〇円とする賦課決定をした。

四  不服申立について

1 原告は、国税通則七五条二項一号(国税に関する処分についての不服申立)に基づき、関東信越国税局長に対し、前記二8の本件通知処分を不服として、別表「異議申立年月日」欄の各日に異議申立をしたところ、同庁は別表「異議決定年月日」欄の各日付でいずれも異議申立を棄却する旨の決定をした。

原告は、右決定を経た後の原処分(本件通知処分)について、なお不服があるとして別表「審査請求年月日」欄の各日に国税不服審判所長に対し審査請求をした。

2 また原告は、前記三の賦課決定処分を不服として、昭和六〇年二月一日に異議申立をしたところ、異議審理庁は同年四月二二日付でこれを棄却する旨の決定をした。

原告は、右決定を経た後の原処分(無申告賦課決定処分)についてなお不服があるとして、昭和六〇年五月一六日、国税不服審判所長に対し、審査請求をした。

3 国税不服審判所長は、前記各審査請求に対し、昭和六一年五月二六日付でいずれもこれを棄却する旨の裁決(関裁(諸)60第一九六三号及び関裁(諸)60第一九六四号)をし、同年六月一三日、原告に対し、各裁決書謄本を送達した。

五  本件通知処分の違法性

本件物品は、物品税法(昭和五九年法律第一五号による改正前のもの、以下「旧法」という。)別表の課税物品表第二種第八号8(以下「旧法別表八の8」という。)に掲げる「ゴムボート、フアルトボート及びゴムヨツトその他これらに類する折りたたみ式の水上遊戯具類」には該当しない。

なぜならば、物品税の課税対象となる物品は物品税法別表の課税物品表に掲名されている物品に限定されているところ、原告の製造に係る本件物品は旧法の別表に何ら掲名されていないからである。

したがつて本件物品について、旧法別表八の8に該当するとして更正の請求を認めなかつた被告の本件通知処分は違法であつて取消されるべきである。

六  無申告加算税賦課決定処分の違法性

原告は、昭和五九年七月三一日に鹿沼税務署に赴き、同署係官に対し、本件物品が旧法別表八の8に該当する課税物品であるとする理由及び納税申告書と更正の請求書を同時に提出することは矛盾しないか、またこれらを同時に提出することは本件物品が課税物品であることを容認したことにならないかについて質問したところ、同係官はこれに対し明確な回答をしなかつた。

原告は、右疑義が解明されないため、当日所持していた本件納税申告書を提出することができず、その解明のためやむなく国税庁に赴くなどしたために、法定申告期限を二日間経過したものである。

したがつて、原告が右申告期限を徒過したことは国税通則法六六条一項に規定する「正当な理由」に該当するので、これを認めずにした本件無申告加算税賦課決定処分は違法である。

七  よつて、原告は被告に対し、本件各処分の取消を求める。

(請求原因事実に対する被告の認否)

一  一の項から四の項までは認める。

二  五の項は争う。

三  六の項のうち、原告の従業員が昭和五九年七月三一日に鹿沼税務署を訪れ、本件物品が課税物品であるか否か、納税申告書と更正の請求とを同時に提出することができるかについて質問したことは認め、その余は否認し、本件無申告加算税賦課決定が違法であるとの主張は争う。

(抗弁)

一  本件課税処分の適法性

1 本件物品の課税取扱い経緯

(一) 本件物品は、昭和四二年にアメリカにおいて発明されたものであり、本件物品が我が国に初めて輸入されたのは、昭和四七年九月、名古屋港(名古屋税関扱い)に陸揚げされたのが最初である。

ところで、内国消費税の課税対象である輸入物品については、輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律(昭和三〇年法律第三七号)により、税関において、関税と併せて内国消費税を徴収することとされている。当時、本件物品の輸入業務を担当した名古屋税関輸入部小野審査官が、本件物品について、名古屋国税局間税消費税課物品税係に本件物品の説明書を持参して、物品税の取扱い、すなわち課税物品に該当するか否かについて、問い合せを行つたところ、名古屋国税局は、物品税法(昭和四八年法律第二二号による改正前のもの。)別表の課税物品表第二種第八号7の「ゴムボート、フアルトボート及びゴムヨツトその他これらに類する折りたたみ式の水上遊戯具類」に該当する旨回答した。即ち、同号の「折りたたみ式」には、後記一の項3の(三)のとおり、その立法趣旨から「縮小させる方式」のものをも含むと解釈され、その取扱いも十分定着していたところ、本件物品は、運搬、保管の際に使用時の形態を縮小することが明らかであつたので、「ゴムヨツト等に類する折りたたみ式の水上遊戯具類」に該当すると判断したのである。

これ以後、本件物品に対する物品税法上の取扱いは、一貫して旧法別表八の8で規定する「ゴムボート、フアルトボート及びゴムヨツトその他これらに類する折りたたみ式の水上遊戯具類」に該当するものとして取り扱われてきた。

(二) 原告は、昭和四九年一月以降昭和五三年七月までの間、本件物品を五回にわたりアメリカから輸入したが、その際、税関に提出する輸入(納税)申告書により「ゴムヨツトその他これらに類する折りたたみ式の水上遊戯具」に該当するものとして内国消費税である物品税を申告、納税し、本件物品が物品税の課税物品であることを認識していた。

(三) ところが原告は、国内において昭和五〇年二月ころから東京都大田区大森中央八丁目一九番一五号において本件物品の製造を開始し、その後昭和五三年四月に同製造場を栃木県鹿沼市茂呂六一〇番地に移転し、引続き本件物品を製造し、右原告製造場から本件物品を移出していたにもかかわらず、昭和五〇年六月から昭和五三年七月までの間物品税の納税申告書の提出を怠つていた。そこで、東京国税局長は国税犯則取締法に基づいて間接国税に関する犯則事件として調査を開始し、その結果昭和五三年一二月七日付けで原告に対して罰金に相当する金額を納付すべき旨通告した。右通告に対して、原告は昭和五三年一二月一一日に通告のとおり金二八四万四〇〇〇円を納付したほか、当該事件にかかる物品税について、それぞれ、昭和五三年九月二九日に大森税務署長あて、昭和五三年一〇月五日に鹿沼税務署長あてに物品税の納税申告書を提出し、その後加算税も含めて納付した。

2 本件物品・「水上遊戯具類」の課税沿革等

(一) 物品税法創設から昭和三七年法改正前までの経緯

物品税法は、昭和一二年八月に公布された物品特別法にその起源を発し、その後支那事変特別税法を経て昭和一五年四月に制定されたものである。そこでの物品税は奢嗜の抑制と財政収入の確保をねらいとして課された税である。

物品税法が制定された当時は、小売段階課税三一品目、製造段階課税二六品目に課税されたが、水上遊戯具類は課税対象とされていなかつた。

昭和一六年、税率の引上げ及び課税範囲を拡大する法改正が行われたが、この改正により、初めて、水上遊戯具類を含めたところの「遊戯具類」という包括的掲名規定がおかれ、それが課税対象(小売段階課税、税率二〇パーセント)とされた。

その後、昭和一九年の法改正で、製造段階課税(税率六〇パーセント)に移行されたのをはじめ昭和三七年法改正までの間、数次の税率の引下げ等の改正(昭和三七年法改正直前、製造段階課税、税率二〇パーセント)が行われた。

(二) 昭和三七年の法改正

昭和三七年には、間接税全般について、大幅な見直しが行われ、これに伴つて、課税の軽減及び合理化を図る法の全文改正が行われた。

「遊戯具類」関係については、従来の包括掲名を原則的に改め、特定の掲名された物品を除き、課税の廃止が行われた。本件物品に関係する「水上遊戯具類」については、「ゴムボート」、「水上スキー」、「水上自転車」、「フライングソーサー」並びに「ゴムヨツト」、「その他ゴムボートに類する折りたたみ式の水上遊戯具類」の各品目が掲名され、引き続き課税されることとされた。

この改正では、課税の軽減合理化の趣旨に基づき、規定の整備が図られ、掲名する課税物品をできる限り具体的な品名を掲げることが基本とされたが、「水上遊戯具類」関係では、当時の「水上遊戯具類」には各種の物品があり、また、レジヤーの普及、発展に伴つて、この種の物品の開発が目ざましく、将来とも新しい物品が出現することが予想され、固定的な品名のみを掲名した場合には、課税のバランスを失することが十分予見されるため、特に課税の公平の見地から「その他ゴムボートに類する折りたたみ式の水上遊戯具類」という包括的掲名規定が一部残された。

(三) 昭和四一年の法改正

昭和四一年の改正では、昭和三七年の改正に引き続き、税負担の軽減が図られるとともに、全面的に課税物品表の組替えが行われた。

この改正により、「水上遊戯具類」については、「フアルトボート」を新規掲名するとともに、「その他ゴムボートに類する折りたたみ式の水上遊戯具類」の包括的掲名規定部分の類似する物品の範囲についても「ゴムボート」に加え、「フアルトボート」及び「ゴムヨツト」を追加して、「ゴムボート、フアルトボート及びゴムヨツトその他これらに類する折りたたみ式の水上遊戯具類」と規定を改め、フアルトボート及びゴムヨツトと類似する物品間の課税のバランスが図られ、税率についても二〇パーセントから一〇パーセントに引き下げされた。

(四) 昭和五九年の法改正

(1) 昭和五九年の法改正では、新たに開発された物品のほか、従来から存在する物品とのバランスからみて課税することが適当であると認められる物品の課税範囲の拡大、自動車類の税率の引上げ及び未納税手続の簡素化等の改正が行われ、「水上遊戯具類」では、既存の同種物品との課税バランスを図る目的で、セーリングボードの部分品(ボード及びボードを含む部分品ユニツト)とサーフボードが新規に課税対象とされた。

(2) セーリングボードは、昭和四七年ころから国内において使用されるようになつてきたが、性状、機能、用途面において、ゴムヨツト等に類似しており、「ゴムボート、フアルトボート及びゴムヨツトその他これらに類する折りたたみ式の水上遊戯具類」に該当すると判断されたので課税物品であると取り扱い、その旨を物品税取扱事例集課税物品編I九三ページ間三〇に登載して、広く一般に公開し、当初から物品税の課税が行われ、その解釈、取扱いは十分定着していたのである。

ところで、昭和五八年ころから、セーリングボードの普及とあいまつて、これらを取り扱う輸入業者や販売業者が増加し、これらの新規業者の中には、セーリングボード(ボード、マスト、セイル等の各部分品一式を合わせて一個の物品)として販売せず、ボード、マスト、セイル等の各部分品単位で販売する者が現われた。

セーリングボードは、ボード、マスト、セイル等の部分品を一体として一個の課税物品と判定されていたので、これら部分品を各別に買受け、消費者によつて取揃えが行われたときには、セーリングボードとしては課税されないこととなる(物品税法一〇条一項)。この結果はセーリングボードとして製造移出又は輸入した場合と比較して、課税の公平に反することは明白であつたので、この不均衡を是正するため、セーリングボードのボード及びボードを含む部分品ユニツトを新たに課税対象としたのである。

(3) セーリングボードの部分品のみの新規課税でありながら、規定上、セーリングボードを「ゴムボート、フアルトボート及びゴムヨツトその他これらに類する折りたたみ式の水上遊戯具類」から独立させ、新規課税物品であるかのような形式になつている。しかし、セーリングボードが従前から課税物品であつたことは前述したとおりであり、右形式の規定となつた理由は立法技術上〈1〉セーリングボード等の部分品のみを掲名し、セーリングボードそのものを掲名しないことは不自然であり、〈2〉当時において、セーリングボートの課税額が、水上遊戯具類の総課税額の五〇パーセント以上を占めていたことなどから、セーリングボードを独立掲名したほうがより明確になることを考慮してその整備が図られたことによるものである。

(4) このように、昭和五九年の法改正は、セーリングボード自体は従前から課税物品に該当していたことを当然の前提として行われたものである。そのことは、昭和五九年法律第一五号「物品税法の一部を改正する法律」附則四条(暫定的非課税)、五条(税率の暫定的軽減)及び一〇条(手持品課税)の諸規定を見ても明らかである。

即ち、新たに物品税の課税対象とされたり、又は税率の引上げが行われる場合には、その対象物品について、暫定税率(一挙に課税又は税率を引き上げた場合、急激な物価上昇に伴う消費の減退、ひいては、製造者の経営を圧迫するので、これを緩和するため、ある一定期間、暫定税率を設け、段階的に税率を引き上げる制度)、及び手持品課税(新規課税や税率引き上げ等が行われる場合、既に一般市場に流通している商品との税負担の調整を図るとともに、駆け込み出荷を防止するなどの趣旨により一般市場在庫に課税する制度)が設けられるのが通例であるが、昭和五九年の法改正により、暫定税率が設けられ、また、手持品課税の対象とされたのは、「セーリングボードのボード」及び「セーリングボードのボードを含む部分品ユニツト」のみで、「セーリングボード」そのものについては、何ら触れられていないのである。

3 本件物品の課税要件の充足

(一) 本件物品は、前記のとおり、昭和四七年九月ころ初めて我国に輸入されたものであり、したがつて、旧法には本件物品の具体的品名は掲名されていない。

しかしながら、本件物品は、旧法別表八の8に掲げる「ゴムボート、フアルトボート及びゴムヨツトその他これらに類する折りたたみ式の水上遊戯具類」に該当すると解されるから、右規定に基づきされた本件課税処分は適法である。即ち旧法別表八の8に該当する課税物品であるか否かは、「水上遊戯具類」に該当するもののうち、「折りたたみ式」で性状、機能又は用途等のいずれかが「ゴムボート、フアルトボート及びゴムヨツトに類する」ものであれば足りると解されるので、以下順次説明する。

(二) 「水上遊戯具類」について

「水上遊戯具類」の意義については、物品税法上、特段の定義規定はなく、一般社会通念により解釈することになるが、「水上遊戯具」とは、水上において、「あそび」又は「勝負ごと」などのために使用する用具全般を指す概念であり、「スポーツ用品」との区別については、現在一般的にスポーツとみられているものであつても、当初はスポーツとしての認識をもたれていなかつたものが多いことは周知のとおりであつて、ある物品をスポーツ用品とみるか遊戯具類とみるかは多分に主観的な要素によつて左右されるものである上、現実の使用実態を踏まえて判断すると、スポーツ用品と遊戯具類とを相対立する別個の概念として区分することは適当ではない。したがつて、当該物品がスポーツ性を併有していることは、該物品を遊戯具類であると判定するについての妨げとなるものではない。

そして、これらを本件物品について見ると、本件物品は、後記(五)(2)〈4〉のとおりボードに人が乗り、風力を推進力として水上を滑走させ、また、波を利用して、水上に飛躍する等により、スピード感、飛躍感を楽しむ用具であつて、一部で競技に用いられ、これがスポーツとして評価されていることはあるが、一般の多くの使用者は、レジヤー用として使用しているのが実情であるから、スポーツ用品としての性格を併せ有するものではあるが、「水上遊戯具類」に該当するものである。

(三) 「折りたたみ式」について

「折りたたみ式」の意義についても、物品税法上、特段の定義規定はないので、同法条の立法趣旨等に沿つて、これを合理的に解釈するほかない。「折りたたみ式」の文言は、昭和三七年の物品税法の改正の際、掲名された「その他ゴムボートに類する折りたたみ式の水上遊戯具類」で初めて用いられたものであるが、法の予定するところは、当時現存した水上遊戯具類で、木製品の骨組みを組み立て、これに浮力を与えるために綿帆布等で覆つたものや、分解された船首、船尾部分の各部分品を組み立てて使用するものなどを念頭に置き、これらはゴムボートと同様に運搬、保管に便利であり、また特にレジヤー性も高いところから、これらを課税対象として応分の負担を求めることとしたのである。したがつて、「折りたたみ式」とは文字どおり折つてたたむあるいは重ねることだけではなく、運搬、保管の際には、使用時の形態を縮小できる方式のものをすべて含む趣旨で立法されたものであり、右立法趣旨を踏まえて解釈すれば、「折りたたみ式」には、構成部分品を取り外して縮小させるいわゆる「組立式」のものも含まれると解すべきである。

このことは旧法の別表において「折りたたみ式の水上遊戯具類」の例示として個別的に掲名されている「フアルトボート」が、組立式のものであることからも明らかである。即ち、フアルトボートは、後記(五)(2)〈2〉のとおり折りたたみが可能な防水布等の船槽と木製等の骨組みの部分品とで構成され、これらの部分品を組み立てて使用するものであり、また、運搬・保管等の際には、使用時の形態を分解して縮小できるもので組立式の構造をもつているのである。

そこで、本件物品について見るに、本件物品は、後記(五)(2)〈4〉のとおり運搬・保管する場合には、ボードからマスト、セイル、ブーム、ダガーボード等の各部を取り外し、セイルについては折りたたむなどした上、ブーム等の他の部分品とまとめて収納、保管して置く、いわゆる組立と折りたたみが複合した方式により、縮小させることは明らかであり、また本件物品を使用する場合には、波打ち際から走行可能な水上までの間、ボード部に帆部(マストにセイルを張つた状態)を完全に倒したままの状態(すなわち、折りたたんだ状態)で移動させ、走行可能な水上でボードに人が乗つて帆部を引き起こし、水上を滑走させるものである。

以上の諸点を併せ考えれば、本件物品が「折りたたみ式」に該当することは明らかというべきである。

(四) 「その他」について

旧法別表八の8の規定は、「ゴムボート、フアルトボート及びゴムヨツト」と「これらに類する折りたたみ式の水上遊戯具類」とが、「その他」で結ばれる構成をとつているが、法令用語上、「その他」で結ばれる前者と後者とは並列的な関係にたち、「これら」は「ゴムボート」、「フアルトボート」、「ゴムヨツト」を指すものであると解される。

(五) 「これらに類する」(一)

(1) 「これらに類する」の意義について、物品税法基本通達は、「『これらに類する』とは、その性状、機能又は用途等が特に品名に掲げた物品に類似する物品をいう。」としており、「いずれにか」とも「いずれにも」とも限定していないのであつて、このことは、ここに掲名されている物品の種類・品目等によつて課税物品の特性が異なることから一義的に解釈できず、各物品の特性に即した解釈が必要あることを意味する。また、物品が物品税法別表(課税範囲)の課税物品表に掲げる物品に該当するか否かは、他の法令による名称及び取引上の呼称等にかかわらず、その物品の性状、機能及び用途等を総合して判定するのが課税物品の取扱いに関する通則的な解釈であり、「その他これらに類する折りたたみ式水上遊戯具類」の意義に関する通達も水上遊戯具類の特性である材料、形態又は用途等を重視し、水上遊戯具類の材質、形態又は用途等のいずれかがこれらの物品に類似するかどうかでもつて判定することを明らかにしている。

したがつて、「これらに類する」とは、これらの諸要素の一つがゴムボート、フアルトボート又はゴムヨツトのいずれか一つに類似している場合を含むことはもとより、これらの諸要素の一つ一つがゴムボート、フアルトボート及びゴムヨツトのいずれにも類似している場合をも含むものと解すべきである。そうすると、当該物品が「ゴムボート、フアルトボート又はゴムヨツトその他これらに類する」物品か否かは、当該物品の性状、機能、用途等を「ゴムボート」、「フアルトボート」、「ゴムヨツト」のそれらと対比して考察し、類似しているか否かを判定し、その結果それらを総合していずれか一つとは判定し難いが、いずれにも類似していると認められれば、右課税物品に該当するということができる。

(2) そこで、「ゴムボート」、「フアルトボート」、「ゴムヨツト」そして本件物品の材質、形態及び用途等について以下順次検討する。

〈1〉 「ゴムボート」は、ゴム又はゴム引布等を材料としたボートで舷側に相当する部分が空気室になつていて、一般的には二つ以上の空気室を有するボートが多く、安全性を確保するために一つの空気室が万一破損しても他の空気室のうける浮力で沈まない構造になつている。通常折りたたんで保管、携帯し、空気室に空気を注入し、ふくらませてボート状にして使用する。用途はレジヤー用のもの、救命用のもの、荷物運搬用のもの等がある。

〈2〉 「フアルトボート」は、折りたたみ可能な防水布又は合成繊維製の船槽と木製又は耐アルミ製の骨組みの部分を組み立てる構造となつている。通常分解して保管、携帯し、使用場所においてこれらの部分品を組み立ててボート状あるいはヨツト状にして使用する。用途はレジヤー用又はスポーツ用として使用されている。

〈3〉 「ゴムヨツト」は、ゴムボートに帆柱、帆、ブーム、舵等の部品を組み立てる構造になつている。通常分解して保管、携帯し、使用場所においてこれらの部分品を組み立ててヨツト状にして使用する。用途はレジヤー用又はスポーツ用として使用されている。

〈4〉 本件物品は、別紙図面1表示のとおりの形状で使用されるものであり、構造的には大きくボード部とリグ部(ボード以外の部分)とに分けることができ、また各部の名称は同図面表示のとおりである。

まず、ボード部は、ボード本体(ハル)とダガーボード、スケグの三つの各部分からなり、ボード本体は、外側がポリエチレンなどでできており、内側に発泡ウレタン等が注入されていて、サーフボード(通称「サーフイン」と呼ばれている。)のような浮力を有する。ダガーボードは、ボトム(ボード本体のうち使用時に水面下に入る側)の中程の穴を取り付け、ボードの横流れを防ぐとともに、ボードを風上に進ませる働きを果たしている。スケグは、別名「フイン」ともいい、ボトム後部の穴に取り付けてボードの横揺れを防ぎ、直進安定性をよくする機能を果たすもので、一枚のものや三枚取り付けるものなどがある。

次にリグ部は、セイル、マスト、ユニバーサル・ジヨイント、ブーム、バテン、アツプホールラインからなつている。セイルは、風の力を受けてボードを前方へ推進させる役目を果たしている。マストは、セイルにあるマスト差し込み用のマストスリーブに通してセイルを支える帆柱である。バテンは、グラスフアイバー等でできていて、セイルのばたつきを押さえ、きれいなセイルカーブを作り出す目的で、セイルの辺(リーチ)にあるバテンポケツトと称する差し込み穴に差し込む。ブームは、マストとセイルに固定し、これによつてセイルを操作するもので、二つのジヨー(あご状のつなぎ)と二本の弓状のバーからなり、ジヨーに二本のバーを差し込んで止めてある。ユニバーサル・ジヨイントは、リグ部とボード部を接ぐもので、上にはマストを差し込み、ボード部との接続はネジ等で取りつける。このユニバーサル・ジヨイントは、三六〇度の回転が可能で、ボードの転覆を防ぐほか、ブームによる自由なセイル操作が行えるようになつている。アツプホールラインは、ボードに乗つてリグ部を引き上げる際に使用するロープである。

以上のような部分品を組み立て、差し込む等して、本件物品を使用状態とし、水上においてボードに人が乗り、アツプホールラインを手操つてセイルを水から引き上げ、ブームを握持して、風を利用しセイリングを行う。搬送、保管する場合には、右各部分品を取り外し、抜き取り、又はマストをセイルに差し込んだままでマストにセイルを巻く等して縮小し、まとめて収納、保管する。

(3) 次に本件物品を性状、機能、用途の各要素に着目してゴムボート、フアルトボート、ゴムヨツトと対比してみると

〈1〉 形態面(主として性状の一形態)においては、浮力を有するボードにマストを立て、帆を張つたもので、一見してゴムヨツトに類似している

〈2〉 構造面(性状の一形態)においては、ボード、マスト、帆等の複数の部分品からなり、使用時にはこれらを組み立てて使用するものであることから、フアルトボートに類似している

〈3〉 機能面においては、水面に浮かせて遊ぶ用具で、使用時以外は運搬、保管ができる点で、ゴムボート、フアルトボート及びゴムヨツトの三者に共通した類似性を有している

〈4〉 用途面においては、帆を張つた用具に人が乗り、風力を利用して水上を滑走するもので、ゴムヨツトに類似している

のであり、総合的にみて本件物品は諸要素においてゴムボート、フアルトボート、ゴムヨツトのいずれにも類似しているということができる。したがつて、本件物品は「その他これらに類する」物品に該当すると解される。

(六) 「これらに類する」(二)

仮に前記(五)の主張が許されないとしても、「これらに」の用語は、二つ以上の品名をつなぎ、それぞれの品名を繰り返す必要のある場合に、同じ品名用語を繰り返し使用することを避けるため用いられるものであつて、本規定の場合の「これら」は、「ゴムボート」、「フアルトボート」、「ゴムヨツト」のいずれかにという意味を有すると解するのが相当である。したがつて、「ゴムボート、フアルトボート及びゴムヨツトその他これらに類する折りたたみ式の水上遊戯具類」とは、「ゴムボート」、「フアルトボート」、「ゴムヨツト」のいずれか一つに類似している折りたたみ式の水上遊戯具という意味に解される。

これを、本件物品について見ると、形態面では浮力を有するボードにマストを立て、帆を張つたもので、一見してゴムヨツトに類似し、また、用途面においても、帆を張つた用具に人が乗り、風力を利用して水上を滑走するもので、使用時以外は分解して運搬、保管ができる物品であり、ゴムヨツトに類似する物品に該当する。

二  本件通知処分の適法性

前記一の項に説明したとおり、本件物品は、旧法別表八の8に規定する「ゴムボート、フアルトボート及びゴムヨツトその他これらに類する折りたたみ式の水上遊戯具類」のすべての要件を充足しているので、課税物品に該当することは明白であり、原処分庁が本件物品を課税物品であるとして、更正の請求に対して更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたことは適法である。

三  本件無申告加算税賦課決定処分の適法性

1 国税通則法六六条一項但し書きに規定する「正当な理由」とは、無申告加算税が租税債権確定のために納税義務者に課せられた税法上の義務の不履行に対する一種の租税行政上の制裁であることに鑑み、このような制裁を課することが不当若しくは酷になるような事情を指すものと解され、納税者の税法上の不知若しくは誤解に基づく個人的な見解に固執して納税しなかつた場合には、申告をしなかつたことに「正当な理由」があるということはできない。

2 これを本件についてみると、昭和五九年七月三一日に原告従業員清原俊彦は、鹿沼税務署に出署し、同署間税部門小林秀雄に対し、本件物品は昭和五九年の物品税法の改正により初めて課税物品となつたと解されるが、従前から課税物品扱いとした理由は何か、また、納税申告書と更正の請求書とを同時に提出することが矛盾しないかなどを質問した。これに対し、右小林は本件物品が旧法下でも課税物品であることを物品税法及び物品税取扱先例集を示して説明し、また、物品税の納税申告書と更正の請求書とを同時に提出することは特に不自然とは思われない旨の説明をしたうえ、当日が申告期限であることから期限内申告をするよう指導し、期限後申告となつた場合には、無申告加算税が賦課される旨を教示したが、清原は納得せず、原告としては本件物品は従前は不課税物品であると考えているとして、昭和五九年五月分の本件物品に係る物品税の納税申告書を提出しなかつた。

3 したがつて、原告は法定申告期限内に申告をしなかつたのであるから、申告をしなかつたことについて、原告の責めに帰することができない事情は存せず、国税通則法六六条一項但し書きに規定する「正当な理由」に該当しないことは明らかであり、したがつて昭和五九年一二月三日付で鹿沼税務署長が原告に対して行つた本件無申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(抗弁事実に対する原告の認否)

一  一の項1について

1 (一)のうち、内国消費税の課税対象である輸入物品については、「輸入物品に対する内国消費税の徴収等に関する法律」により税関において、関税と併せて内国消費税を徴収することとされていることは認め、その余は知らない。

2 (二)及び(三)は認める。但し、原告が本件物品について納税したのは、原告の物品税に対する知識の不足、更には誤つた見解に立つた税務署係官の強い指導に基づき原告が錯誤に陥つたことが原因である。

二  一の項2について

1 (一)のうち、昭和一六年の法改正の際規定された「遊戯具類」に「水上遊戯具類」が含まれるとの点は争い、その余は認める。

2 (二)のうち、昭和三七年に間接税全般について法改正が行われ、「遊戯具類」については従来の包括掲名を改め、特定の掲名物品を除き課税が廃止されたことは認め、その余は争う。

3 (三)は認める。但し、当時は本件物品は存在せず、これを課税品目に加えることは予想されていなかつた。

4 (四)の(1)のうち、昭和五九年の法改正で課税範囲の拡大、自動車類の税率の引き上げ、未納税手続の簡素化等の改正が行われたことは認め、(四)の(2)のうち事実主張は否認し、法的主張は争う。(3)、(4)は争う。本件物品は、後記のとおり、昭和五九年の法改正で初めて課税物品とされたものである。

三  一の項3及び二の項は争う。

四  三の項について

1 1及び3は争う。

2 2のうち、清原が被告主張の質問をしたことは認めるが、その余は否認する。

(抗弁に対する原告の反論)

一  本件通知処分の違法性について

1 物品税法は、物品税の課税対象の明示について、租税法律主義に基づき、個別掲名主義を採用しており、ある物品が物品税法に掲げる課税対象物品であるかは、文理解釈に基づき厳格に解釈されなければならないところ、旧法には、本件物品は個別的には掲名されておらず、また、被告主張の旧法別表八の8に規定する「ゴムボート、フアルトボート及びゴムヨツトその他これらに類する折りたたみ式の水上遊戯具類」にも該当しない。

2 「水上遊戯具類」について

本件物品は、「スポーツ用品」を主としており、単なる「娯楽用品」ではなく、スポーツは遊戯とは異なるのであるから、「水上遊戯具類」には含まれないと解される。

3 「折りたたみ式」について

「折りたたむ」とは、折つて重ねることにより、小型化して携帯に便ならしめるものであつて、いくつかの部品が独立して存在し、それらをまとめて一つの物とする「組立式」とは異なるものである。本件物品は、サーフボードの本体に推進力としてセールその他の部品を「組立」て使用し、不用のときは分解して格納するものである(組立式)から、「折りたたみ式」には該当しない。

4 「その他これらに類する」について

(一) 物品税法において、別表の課税物品表の品目欄に掲げられている物品の名称には、抽象的、包括的または一般的な品名によつているものが多いが、個別掲名主義のもとにおいては、これらの規定は、課税物品であるか否かの範囲が明確になるよう解釈されなければならない。

したがつて、「その他これらに類する」とは、掲名された複数の物品のいずれか一つに特に類似していることをいうものと解され、特に類似しているかどうかは、その物品の性状、機能、用途、原材料、形態、構造、製造方法、使用方法、価格等に併せて、経済的、社会的状況を総合して検討すべきである。

(二) 本件においては、本件物品が「ゴムヨツト」に特に類似しているかどうかが問題となるので、以下詳説する。

ゴムヨツトとは、ゴムボートに帆を付けたようなもので、風力を原動力とするものと、自力でも航行できるように簡単な推進装置を付けたものとがあり、ゴムボートとは、ゴム又はゴム引布を材料としたボートで、舷側に相当する部分が空気室になつており、一般的には二つ以上の空気室を有するボートが多く、安全性を確保するために一つの空気室が万一破損しても、他の空気室の受ける浮力で沈まない構造となつている。通常、折りたたんで保管、携帯し、空気室に空気を注入し、膨らませてボート状にして使用する。木製ボートに比較して軽量で運搬が容易であり、また艇座も不要である。用途は、レジヤー用、救命用、荷物運搬用のもの等に区分される。

5 両者の比較

そこで両者を比較する。

(一) 「性状」につき、ゴムヨツトはゴムまたはゴム引布を材料としたボート、即ちゴムボートに帆を付けたもので、ボートを本質とするものであるから、板状のボートにユニバーサルジヨイントで帆を連結した本件物品とは全く異なるものであり、ボートとボードは本質を異にするものである。

(二) 機能につき、「ゴムヨツト」は固定したマストに帆を付して風力によつて推進するが、本件物品は、使用者が折りたためないボードの上に立つてブームを両手で握持して、推進力を得るものであつて、ブームから手を離せばマストはすぐに倒れるような三軸方向に自在に傾斜できるユニバーサルジヨイントによつてボード本体に連結され、使用者自身が風力の伝達及び操作機構の一部として機能するのである。

(三) 構造についても、「ゴムヨツト」の本体であるゴムボートが空気室のうける浮力を中心とする凹部をなし、使用者が座つているのが通常であるが、本件物品は、ボード(板)であるから使用者はボードの上に立つてブームを操作するので凹部は必要でない。

(四) 用途につき、前述したように「ゴムヨツト」がレジヤー・救命・荷物運搬用なのに対し、本件物品は主として「スポーツ」用品であるのみならず、「ゴムヨツト」が折りたたみできる「ゴムボート」を本質とするから携帯の便を重視するのに対し、本件物品は組立てることは出来るが携帯の便はない。

以上のとおり、本件物品は、「ゴムヨツト」とは明らかに異なるものである。そして、本件物品は、「ゴムボート」とも「フアルトボート」とも類似しないことは明らかであるから、結局旧法別表八の8に規定する課税物品には該当しない。

6 昭和五九年の物品税法改正について

本件物品が旧法上の課税物品に該当しないことは、昭和五九年の物品税法改正の経緯からも明らかである。

即ち、昭和五九年一月一八日付の自民党税制調査会答申の「昭和五九年度税制改正大綱」、これを受けた同年一月二七日の政府閣議決定に係る税制改正要綱、更に第一〇一回国会衆議院大蔵委員会における質疑においては、本件物品自体(「ウインドサーフアー」と呼称している。)を新規課税物品とし、昭和五九年の法改正に際して、納税者に対する急激な税負担の加重を避けるため、経過措置として暫定税率を設けるべきものとしているのである。また、同国会昭和五九年三月二一日の大蔵委員会の政府委員の答弁においても、五品目一八物品について新規課税物品とする旨が答弁されており、本件物品自体も新規課税物品であると解されていたのである。

確かに、昭和五九年の法改正の際、結局本件物品については、暫定軽減税率の規定が設けられていないが、右審議経過程を考慮するならば、これは誤つた法解釈に基づいて原告に課税してきた行政上の取扱いに配慮し、これを糊塗することを目論んだことの証左であるといえるのである。

二  理由の差し換えについて

1 被告は、旧法別表八の8の「これらに類する」の解釈について、実務の運用に関する物品税法基本通達別表第一、一一条、同16において、また本件の審査請求の際にも、一貫して抗弁一の項3の(六)のとおりの主張(以下「予備的主張」という。)をしてきたが、当審第五回口頭弁論において、抗弁一の項3の(五)の主張(以下「主位的主張」という。)をするに至つた。

2 しかしながら、右主位的主張は、物品税法における課税物品に該当するか否かの判断に関する理由を差し換えるものであつえ、物品税法上の個別掲名主義に反し許されない。

3 右主位的主張は、当審において、原告が、予備的主張に対して遅滞なく反論し、かつ証拠の申出もし、争点も明確になり、立証段階に入つた後、突如主張されたものであつて、国税通則法一一六条の趣旨に反し、主張すること自体許されない。

4 行政庁として、公権力を行使しながら、後日処分の根拠をすり換え、二様の解釈が可能であるとして、主位的主張をすることは、行政行為の特質に反し、納税者の信頼を裏切るもので、かかる主張は信義則に反し許されない。

5 また、憲法の租税法律主義の原則(憲法三〇条、八四条)は、課税要件明確主義をとり、特に物品税法は、個別掲名主義を採用しており、法解釈上二様の解釈を許さないから、旧法別表八の8について二様の解釈ができるとするならば、右規定自体が憲法に違反し、無効である。

第三証拠 <略>

理由

一  原告会社に関する請求原因事実一の項、本件通知処分に関する同二の項、本件無申告加算税賦課決定処分に関する同三の項、これらに対する不服申立に関する同四の項はいずれも当事者間に争いがない。

二  旧法別表八の8の解釈と掲名物品との比較

1  本件物品の具体的品名である「セーリングボード」が物品税法の課税物品として掲名されたのは、昭和五九年法律第一五号物品税法の一部を改正する法律(以下「昭和五九年改正法」という。)による改正後の物品税法(現行物品税法)であつて、旧法上は本件物品の具体的品名を掲げた規定はない。したがつて、本件物品が旧法の解釈上も課税物品であるというためには、本件物品が旧法別表八の8に規定する「ゴムボート、フアルトボート及びゴムヨツトその他これに類する折りたたみ式の水上遊戯具類」に該当するかどうかが問題となる。以下この点について、順次検討する。

2  本件物品の構造、材質、機能等

<証拠略>によると、本件物品について次の事実が認められる。

(一)  構造、材質等

本件物品の構造は、概ね別紙図面1表示のとおりであり、大別してボード部とリグ部とに分けられる。

まず、ボード部は、通常ボード本体(ハル)、ダカーボード及びスケグ(フイン)で構成される。ボード本体は通常別紙図面2表示のような形状をした板状のもので、その全長、幅、重量(浮力)、形状や材質等は、楽しみ方や競技の種類によつて異なるが、一般的なもの(プロダクシヨンボード)は外側がポリエチレンでできており、その中に発泡スチロールが注入されて作られている。ダカーボードは、ボードのほぼ中央部にある穴にボトム(ボード本体のうち使用時に水面下となる部分)方向に差し込んで取り付けるもので、一般的には硬質ポリウレタン製であつて、水中で側面抵抗を作ることによつてボードの横流れを防ぐとともに、ボードを風上に進める働きをするが、一部のボードにはこれが取り付けられていないものがある。スケグ(フイン)は、ボトム後部の穴に取り付けられ、一般的には硬質プラスチツク製であり、ボードの横揺れを防ぎ、その直進安定性を良くする働きをするものであつて、その形状、枚数は楽しみ方等によつて異なつている。

次に、リグ部は、通常セイル、マスト、ユニバーサルジヨイント、ブーム、バテン、アツプホールラインから構成される。セイルは、風力を受けてボードを前進させる働きをするもの(帆)で、通常は三角形でナイロンやプラスチツク等でできているが、材質、形状は楽しみ方等によつて異なつている。マストは、セイルにあるマスト差し込み用のマストスリーブに通してセイルを支える帆柱であり、主にグラスフアイバー、カーボンフアイバーやアルミニウムで作られている。バテンは、主にグラスフアイバー等でできていて、セイルの頂点(ピーク)からセイルの辺(リーチ)にあるバテンポケツトに差し込まれ、セイルのばたつきを押さえ、きれいなセイルカーブを作る働きをする。ブームは、マストとセイルに固定し、これによつてリグ部を操作するためのものであり、二つのジヨー(顎状のつなぎ)と二本の弓状の棒(バー)からなり、ジヨーに二本のバーを差し込んで止めてある。マスト側のジヨーには、水面に倒れたセイルを引き上げるための紐(アツプホールライン)が取り付けられる。ユニバーサルジヨイントは、上にマストを差し込み、これをボード本体中央部の穴に差し込んでボード部とリグ部をつなぐもので、三六〇度の回転が可能であつて、これによりボードの転覆を防ぐほか、リグ部を前後に傾けることによつて進路を自由に変更する働きをする。

(二)  機能、用途等

本件物品は、右(一)認定の各部品を組立てるなどして、別紙図面1表示のような形状とし、水上において、ボードの上に人が乗り、アツプホールライン等で水面上に倒れているセイルを引き上げ、ブームを通常両手で握持し、リグ部を操作しながらセイルによつて風力を利用して、さまざまな方向にボードを推進させ、水上を滑走して航行(セイリング)したり、波を利用して水上を跳躍(ジヤンプ)するなどして楽しむものである。

本件物品は、右のようなセイリングを個人が楽しむために開発されたものであり、現在も多くは個人のレジヤー用として使用されているが、近時はスポーツ競技として世界各地でさまざまな種類の競技が開催されており、昭和五九年にはロサンジエルス・オリンピツクの正式種目に採用されるに至つている。

(三)  保管、運搬

本件物品を保管、運搬する場合には、前記各部分品を取り外して分解し、セイルは、マストリープから抜き取つてたたむか、マストに付けたままマストに巻き付けるなどして縮小し、まとめて収納、保管する。

以上の事実が認められ、これに反する証拠はない。

8 「水上遊戯具類」について

「水上遊戯具類」については、物品税法(旧法)上格別の定義規定はなく、その意義は、もつぱら解釈に委ねられているところ、「遊戯」とは一般に遊びたわむれることを意味するものであるから、「水上遊戯具類」とは、広く水上において遊び楽しむための用具一般をさすものと解すべきである。

これを本件物品について検討すると、本件物品は、前記のとおり、ボードの上に人が乗り、ブームを握持して、リグ部を操作しながらセイルによつて風力を利用し、さまざまな方向にボードを推進させ、水上を滑走して航行(セイリング)したり、波を利用して水上を跳躍(ジヤンプ)するなどして楽しむものであり、現在も多くは個人のレジヤー用として使用されているのであるから、右「水上遊戯具類」に該当すると解される。

確かに、前記のとおり、本件物品は近時スポーツとして注目され、各地で競技が催されたりしているが、スポーツにも「遊戯」としての要素は含まれており、その概念は相対的なものであると考えられるから、本件物品が前記使用目的に供されるものであることが認められる以上、それがスポーツ用品としての要素を有するからといつて、「水上遊戯具類」に該当しない根拠とすることはできない。

4  「折りたたみ式」について

本件物品は、前記のとおり、運搬、保管する場合には、ボード本体からリグ部、ダカーボードを取り外し、リグ部はマスト、セイル、ブーム等に分解し、セイルについては折りたたむ若しくはマストに巻き付けるなどしてまとめて収納、保管するものであり、使用時には逆にこれを組み立てて使用するものであつて、折りたたみ式といわゆる組立式とを複合した方式によつて縮小、保管するものであるので、これが旧法別表にいう「折りたたみ式」に含まれるか検討する。

「折りたたみ式」についても、物品税法上格別の定義規定はなく、その意義については解釈に委ねられているところ、「折りたたむ」とは、一般的には折り重ねて小さくすることを意味するが、「折りたたむ」のものといわれるものの中には、分解して縮小し、分解した部分品を組み立てて本体を形成するもの(例えば、折りたたみ戸や折りたたみ家具など)も存在するので、「折りたたみ」の用語の意義から直ちに「折りたたみ式」が「組立式」のものを含まないと解することはできない。そして、物品税法が主として奢嗜的、趣味・娯楽的あるいは便宜的な消費に課税していることに鑑みると、同法が「折りたたみ式の水上遊戯具類」を課税対象物品としている趣旨は、趣味的、娯楽的要素を持つ「水上遊戯具類」のうち、折りたたむ等により縮小できるものが保管や人力ないし自動車等による簡易な運搬に便利であり、レジヤー性、娯楽性が高いことに着目したものと解されること、また後記認定のとおり、旧法別表八の8に掲名されている「フアルトボート」には、組立式のものが存することが認められるのであつて、以上に照らすと、旧法別表八の8にいう「折りたたみ式」には、文字どおり折りたたむ方式により収容するものの他、部分品を組み立てるいわゆる組立式のものも含むと解するのが相当である。

したがつて、折りたたみ式と組立式とを複合した方式で縮小し、保管、運搬する本件物品は、右「折りたたみ式」の水上遊戯具類に該当すると解される。

5  「その他これらに類する」について

(一)  旧法別表八の8は、「ゴムボート、フアルトボート及びゴムヨツト」と「これらに類する折りたたみ式の水上遊戯具類」とが「その他」で結ばれる構成をとつているところ、「その他」で結ばれるものは、法令用語上、前者と後者とが並列的関係に立つものと解され、「これら」とは「ゴムボート」、「フアルトボート」、「ゴムヨツト」をいうものと解される。そして、本件物品が課税物品であるか否かは、本件物品が「折りたたみ式の水上遊戯具類」のうち、「これらに類する」ものに該当することが必要である。

(二)  一般にある物品が物品税の課税対象物品であるか否かの判断は、主として奢嗜的、趣味・娯楽的あるいは便宜的な消費に課税している物品税の趣旨に鑑み、材料又は原料、形態、構造、製造方法、性質、性能の他、その用途、使用方法又は価格等の実質について、総合的に検討してすべきものと解され、「これらに類する」ものであるか否かの判断は、当該物品と掲名されている複数の課税対象物品(以下単に「掲名物品」という。)とを個別に比較し、上記の判断要素のうち当該物品を特徴付けている本質的要素が、掲名物品を特徴付けている本質的要素に特に類似しているかどうかをもつて判断すべきであると解される。したがつて、本件においても、本件物品の構造、材質、機能又は用途等の特徴のうちの本質的要素が「ゴムボート、フアルトボート及びゴムヨツト」のいずれか若しくは複数に特に類似しているかどうかをもつて判断すべきこととなる(当該物品と複数の掲名物品とを比較する場合、掲名物品の諸要素を総合してこれと当該物品との類似性を比較すべきものではないが、そうであるからといつて、当該物品と掲名物品とを個別に比較した場合、当該物品が複数の掲名物品と類似することはありうるところであるから、特に複数の掲名物品に類似するものを排除する趣旨とは解されない。)。

(三)  掲名物品の構造、材質、機能等

そこで本件掲名物品の構造、材質、機能及び用途等について検討するに、<証拠略>によると、次の事実が認められる。

(1) ゴムボートは、ゴム又はゴム引布を材料としたボートで、舷側に相当する部分が空気室になつていて、一般的には二つ以上の空気室を有するボートが多く、安全性を確保するために、一つの空気室が万一破損しても他の空気室の受ける浮力で沈まない構造になつている。通常折りたたんで保管、携帯し、空気室に空気を注入し、ふくらませてボート状にして使用する。木製ボートに比し、軽量で、運搬が容易であり、また、艇庫も不要である。用途は、レジヤー用のもの、救命用のもの、荷物運搬用のもの等がある。

(2) フアルトボートは、折りたたみ可能な防止布又は合成繊維等でできた船槽と木製又は耐アルミ製等の骨組みの部分を船型に組立てる構造のボードである。通常布の部分を外して折りたたみ、骨組みの部分を折りたたみあるいは分解して保管、携帯し、使用時にこれらの部分を組立ててボート状あるいはヨツト状(帆を付けて風力で推進するもの)にして使用するもので、用途は通常レジヤー用又はスポーツ用である。

(3) ゴムヨツトは、前記(1)のゴムボートに帆(セイル)を取り付け、風力を原動力に推進するもので、簡単な推進装置を付けたものがある。通常、帆柱(マスト)はゴムボートに取り付けられた底板に固定されており、また船尾には梶が取り付けられている。保管、運搬の際には、帆柱や梶等を分解し、使用時にこれらを組立て使用する。用途は、主としてレジヤー用又はスポーツ用である。

以上の事実が認められ、これに反する証拠はない。

(四)  本件物品と掲名物品との比較

そこで、前記二の項の2認定の本件物品と同5の(三)認定の掲名物品とを比較すると、確かに、本件物品は別紙図面2表示のような形状をした浮力を有するボードに帆柱(マスト)を取り付け、帆(セイル)を張り、風力を利用して滑走(セイリング)するものであり、その点において、一見ゴムヨツトに似ているともいえる。

しかしながら、右の点だけでは、単に本件物品がヨツト状のものであるというに過ぎず、本件物品の本質的要素がゴムヨツトの本質的要素に類似することを意味するものではない。ゴムヨツトは、ゴムボートに帆柱を取り付け、帆を張つたもので、その本質はあくまでボート、即ち乗つた人が格別の動作をしなくても水上において安定性を保持できるところの舟であるのに対し、本件物品は、ボードと呼ばれるポリエチレンや発泡スチロール等でできた板状のものにリグ部(帆の部分)を取り付けたものであり、右ボードは、構造、材質等において、ゴムボードとは全く異なり(むしろ昭和五九年改正法別表八の8において、新規課税物品とされたサーフボードに類似している。)、ボートの様に上部に凹部もなく、乗つた人がリグ部とボード部とを手足で支持しかつバランスを維持する動作を加えることによつて初めて安定性を生み出すことができ、そこに製品としての特徴があるのであつて、それ自体は舟としての独立した安定性を具有していないのであつて、本質的にボート(舟)ではない。また、ゴムヨツトでは、帆柱(マスト)とボートの底板とが固定されていて、それ自体人が乗らなくても舟として水面上に浮くのに対し、本件物品では、リグ部とボード部はユニバーサルジヨイントと呼ばれる部品で結合されており、両者は完全に固定されてるのではなく、リグ部は三六〇度回転が可能であり、人がボード上に乗つてバランスを取りながらリグ部を操作してはじめて、水面上を滑走しうるものであり、逆に人が手を離すとリグ部が倒れてしまうなど、それ自体掲名物品のように舟としての安定性を有していないのである。

更に、本件物品は、ボード、マスト、セイル等の複数の部分品からなり、使用時にこれらを組立て使用するものである点において、フアルトボート、ゴムヨツトに似ているが、このことは単に本件物科が組立式であること、即ち「折りたたみ式の水上遊戯具類」であることを示すに過ぎず、「折りたたみ式の水上遊戯具類」のうち特に「フアルトボート」、「ゴムヨツト」に類似することの根拠とはならず、また本件物品は、機能面において、掲名物品三者と同様に水面に浮かせて遊ぶ道具であるが、このことも本件物品が単に「水上遊戯具類」であることを示すに過ぎず、それ以上に掲名物品との類似性を示す根拠足りえない。

そして、これまでに検討した以上に構造、材質、機能、用途等の本質的要素において、本件物品が掲名物品に類似する点は認められないから、結局、本件物品は、旧法別表八の8の要件のうち、「これらに類する」との要件を欠くことになり、したがつて、同表の定める課税物品であるということができない。右の点に関する被告の抗弁は、失当であり、他に被告の右抗弁を裏付けるに足りる証拠もない。

三  本件物品の課税取扱の経緯等について

なお、被告は、本件課税処分の適法性の根拠として、本件物品の課税取扱の経緯、昭和五九年法律第一五号物品税法の一部を改正する法律(以下「昭和五九年改正法」という。)の趣旨を主張するので、以下この点について検討する。

<証拠略>を総合すると、本件物品は、昭和四二年ころ、アメリカにおいて開発され、我が国には昭和四七年ころ初めて輸入されたものであり、輸入当初より、昭和四八年法律第二二号による改正前の物品税法(以下「昭和四八年改正前の物品税法」という。)別表の課税物品表第二種第八号7、更に旧法表八の8の「折りたたみ式水上遊戯具類」として取り扱われ、原告も、東京国税局からの国税反則取締法一四条一項に基づく罰金に相当する金二八四万四〇〇〇円の納付の通告に対し、同年一二月一一日、これを履行し、以後本件更正の請求に至るまで本件物品の物品税を申告、納税するなど本件物品が旧法上も課税物品であつたことを承認するような行動をとつていたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

また、昭和五九年改正法は、前記のとおり、新たに本件物品の具体的品名を掲名をし、新規課税物品である本件物品の部品とともにその税率を一〇パーセントと定めたが、右本件物品の部品については、附則第四条において、同法施行日である昭和五九年四月一三日から同年九月三〇日までの間暫定的に非課税とし、附則五条において、同年一〇月一日から昭和六〇年九月三〇日までの間、期間内にその製造に係る製造場から移出され、又は保税地域から引き取られるものに課されるべき物品税の税率を暫定的に軽減して五パーセントとし、附則一〇条において、手持品課税(法の定める期日に一定の場所において、製造業者等が販売のため所持する一定数以上の新規課税物品に対して課される税)の税率を暫定的に五パーセントとするなど、新規課税にともなう納税者の急激な負担増を緩和するための経過措置を規定しているのに対し、本件物品自体についてはこのような経過措置の規定を置いていない。そして<証拠略>によると、昭和五九年改正法は、本件物品自体が国税当局から従来より課税物品として扱われてきた経緯を是認し、前記本件物品の部品が各別に取引された場合には課税されないという不均衡を是正するため、右部品を新規課税物品としたものであり、本件物品自体についても新たに具体的品名を掲名することとしたのは、本件物品の部品が具体的品名で規定されるのに合わせ、立法技術上本体である本件物品も具体的品名を個別的に掲名することとしたものに過ぎないものと認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

しかしながら、本件物品が輸入当初から一貫して課税物品として扱われ、昭和五九年の改正法が右実務の運用を是認して、本件物品を従前からの課税物品であるとする趣旨であると解されるとしても、旧法の解釈上本件物品が課税物品であると解しえない以上、右運用は誤つた法解釈を前提としたものということに帰し、旧法上本件物品を課税物品とした本件課税処分を適法ならしめる根拠とすることはできず、この点に関する被告の主張は採用できない。

四  本件通知処分の適法性について

以上検討したとおり、その余の点を判断するまでもなく、本件物品が旧法当時からの課税物品であつたとする被告の抗弁は失当である。

なお、前記三認定のとおり、昭和五九年の改正法は、本件物品を旧法当時からの課税物品であるとして扱つており、本件物品の部品(セーリングボードのボード及びボードを含む部分品ユニツト)のような暫定的な非課税措置、暫定的税率の軽減措置等の経過措置を講じておらず、その結果、本件物品とそれに期を同じくして新規課税物品されたものとの間に税率の不均衡を生じているが、右のような経過措置は、税率の急激な変動を避ける政策として立法府の裁量に基づき規定されるものであつて、立法府が本件物品について右のような経過措置を置かなかつたからといつて本件課税処分の効力を左右する事由とはならず、そうである以上、本件物品自体については昭和五九年改正法が施行された日(附則一条により公布の日である昭和五九年四月一三日)から一〇パーセントの税率で課税されるものと解される。

したがつて、被告がした別表1のうち昭和五八年五月分から昭和五九年四月分までの課税処分は不適法であり(四月分は施行の日から前記のように本件物品は課税物品となるが、右施行の日までの課税処分は不適法であり、結局当月分全体について更正がされるべきである。)、この部分についてした原告の更正の請求に対し、被告がした更正をすべき理由がない旨の通知処分も違法であるが、その余の通知処分は適法である。

五  無申告加算税賦課決定処分について

<証拠略>を総合すると、昭和五九年七月三一日に原告従業員清原俊彦が、鹿沼税務署に出署し、同署間税部門小林秀雄に対し、本件物品は昭和五九年の物品税法の改正により初めて課税物品となつたと解されるが、従前から課税物品扱いとした理由は何か、また、納税申告書と更正の請求書とを同時に提出することが矛盾しないかなどを質問したこと、これに対し、右小林は本件物品が旧法下でも課税物品であることを物品税法及び物品税取扱先例集を示して説明し、また、物品税の納税申告書と更正の請求書とを同時に提出することは特に不自然とは思われない旨の説明をしたうえ、当日が申告期限であることから期限内申告をするよう指導し、期限後申告となつた場合には、無申告加算税が賦課される旨を教示したが、清原は納得せず、原告としては本件物品は従前は不課税物品であると考えているとして、昭和五九年五月分の本件物品に係る物品税の納税申告書を提出しなかつたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

ところで、国税通則法六六条一項但し書きに規定する「正当な理由」とは、無申告加算税が租税債権確定のために納税義務者に課せられた税法上の義務の不履行に対する一種の租税行政上の制裁であることに鑑み、このような制裁を課すことが不当若くしは酷になるような事情を指すものと解され、納税者の税法上の不知若しくは誤解に基づくというのみでは「正当な理由」があるものとはいい得ないと解されるところ、前記三のとおり、昭和五九年五月分の本件物品の物品税については、既に昭和五九年の改正法が施行され、課税の根拠規定が明定されていたのであつて、それにもかかわらず、原告は、前記認定のとおり、本件物品がいまだ課税物品ではないとの解釈のもとに申告期限までに申告しなかつたのであるから、右申告懈怠には、「正当な理由」は存しないといわなければならない。したがつて、この点に関する被告の抗弁は理由がある。

六  むすび

よつて、原告の本訴請求は、原告が別表1記載のとおり、昭和五八年五月分から昭和五九年四月分までの本件物品に係る物品税についてした更正の請求に対して、被告が昭和五九年一一月二六日付でした本件通知処分の取消を求める部分に限り理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 野澤明 草深重明 三角比呂)

別表 <略>

図面1、2 <略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例